TOKYO STARTUP GATEWAY

English都庁総合トップページサイトマップ

HOME > TSGマガジン > 先輩のSTARTING LINE -第3回- 社会とアートの橋渡し役が大切にする”自分はやりたい”という気持ち

Report
先輩のSTARTING LINE -第3回- 社会とアートの橋渡し役が大切にする”自分はやりたい”という気持ち

冠 那菜奈さん(アートメディエーター/Tiarart.com 代表/一般社団法人オノコロ 理事)

Facebookアイコン Xアイコン はてブアイコン LINEアイコン

IMGA0915

『先輩のSTARTING LINE』は、自分らしい生き方・働き方の実践者たちが、どのようにはじめの一歩を踏み出し、トライ&エラーを重ね、今に至るのかに迫った連載シリーズです。

段階を踏んで、前進してきた“先輩方”のエッセンスが凝縮された内容となっていますので、「いつかやってみたい」を「いまやっている」に変えていきたい、「やりたいことが見つからない、まとまらない」、「やりたいことを本当にやって良いのか?」、そんな疑問に対するヒントを得てもらえたらと思います。

第3回は、アートメディエーター/Tiarart.com 代表/一般社団法人オノコロ 理事の冠 那菜奈さんの記事となります。ぜひご覧ください。

※本連載シリーズは、TOKYO STARTUP GATEWAYビジネススクール連続講座 「スタトラ」 の中で行われたコンテンツ「先輩訪問」のレポート記事となります。


 

新卒フリーランスになるまで

―自己紹介をお願いします。

冠 那菜奈と申します。よろしくお願いします。どちらかといえば 、まだまだみなさんと同じ立場で、色んなものを試行錯誤しながらやっているので、「こういう人もいるんだな」と自分のことを捉えていただければと思います。

私はアートを媒介する仕事、アートメディエーターという職業をしています。1987年生まれの立川育ちです。今の自分の仕事は、中学高校と文化祭や体育祭を謳歌したからこそ続いていると思います。お客さんと自分、学校の先輩後輩みんなが楽しめるような空間を作る企画をしたり、運営をするのがすごい楽しくて、そうしたことをそのまま仕事にできれば良いなと思っていました。そんなことを考えつつも、私はどこの大学に行けば良いのかも分からず、高校を卒業してからの1年間は浪人生として過ごしていました。その時に、たまたま美術を扱う人に多く出会ったんですよね。分野を超えて好きなことをやっている方々の話を聞き、そこから美術に関心が湧きました。ただ、当時の私は全然美術が分からない人間でした。ですが、絵を描かずに入れて、アートマネジメントを勉強できる学科が 武蔵野美術大学にあるのを知って、そこを受験しました。ご縁があってそちらに進学し、美大ではアート環境の整備や、アーティスト ・クリエイターを社会とつなぐ色んな橋渡し等をしていくための勉強をしました。

ここからは何故自分がフリーなのかという話をさせていただきます。結構武蔵野美術大学では起業率も高いんですけど就職率も高くて。みんな何かしらの会社に入り、バリバリ仕事をしているのですが、当時就活期間に入った途端、周りがよそから借りてきたものばかりを着ている気がしたんですよね。せっかくそれぞれの芸術を学んで個性を育んできたのに、誰かから借りてきたものを着ちゃうのはもったいないなと思って。加えて卒業直前に東日本大震災もあって、「本当に明日この世界がどうなるか分からない状況で我々は今性生きている」ということを考えた時に、なるべく今の自分の実感が伴いつつ、楽しいこと、好きなことをやっていかないと生きていくの がもったいないなと思ったんです。そのまま社会に投げ出される形で、私はフリーランスになりました。今では色んな人達と仕事をす るために法人も持っています。個人としては来年度で7年目、法人は5年目になります。

アートメディエーターの役割

「なぜメディエーターと言っているの?」という疑問があると思うのですが、この言葉は生物、電子、医療の分野で元々使われていた 言葉なんです。例えば、お医者さんと患者さん、両者の知識や想いを理解して、翻訳や橋渡しをするような役割のことを、医療メディエーターと言うんです。私はそれをアートでやりたいなと思い、アートメディエーターと名乗っています。性質の違うヒトモノコトをアートを介してつなぎ合わせ、より良い関係や場所、空間、企画を作る仕事をしています。アートというのは、まさに1人1人が違うという当たり前のことや新しい価値観を気付かせてくれたり、想像力や妄想力をかき立ててくれるメディアだと思っているので、私はアートに関わる仕事をしています。アートを考える時の大事なポイントとして自分が考えているのは、「色々な分野に対してひらく」「色んなものをつなげる」「クオリティをきわめる」の3つです。三位一体がちゃんと成り立つようなことをせねば、と常に考えています。

非日常を出するイベントのみならず、日常にもアートが浸透することも目指しているので、自分は色々な範囲に重きを置いて様々なプロジェクトをやっていますね。実際の仕事の内容としては、企画、進行管理といった運営全般はもちろん、資金調達、経理会計のような細かいお金の管理調整、検証評価のための記録や振り返りもします。プロジェクトによっては広報だけの時もあれば全部やるときもあります。それはプロジェクトによって担当領域が違ってきます。とはいえ、もちろん自分の得意分野ってあるので、私はどちらかと言うと何も無いところから1をつくるというよりも、生まれた芽を愛でて育てる、1から100をどうやって育んでいくか、広げていくか、伝えていくかに尽力する方が得意だな、と思っています。

―メディエーターのような仲介役をやりたいと思ったのはいつからですか?

大学に在学していた時からですかね。面白いものを作っている人達って実はたくさんいるのだけど、届いてないしつながっていない、という意識が美大に入って特に強くなったんですよね。頑張って創意工夫を凝らして作っているのに、アトリエの中にこもって誰にも知られずにやっている。本人は作ることにいっぱいいっぱいで、考えていても手が出せない状態がもったいないと思って。なので、 何かしら自分が代わりになって、ここにこんなにすごい面白い人達がいるんだぞと伝える役割を担えたら良いな、と考えたのが始まりだと思います。ただもちろんそれがどうすれば仕事になるのかは、自分も大学に入ってから美術に関わり始めたので、全く分からなかったです。でもそれこそ、この先輩訪問(※当企画)のようなことはずっとしていました。自分の場合は読書よりも体験の方が知識になるタイプだったので、ひたすらイベントやボランティアに参加していましたね 。先輩を辿ってお話を聞いたり、手伝わせてもらったり、とにかくひたすら展覧会に足を運んだのも知見が広がったと思います。またその時に大学の外で出会う大人達から「君は何をやりたいの?」と問われることが沢山あったので、自分が何をやりたいかを何度も相手に伝えていくうちに、伝え方が向上したり、自分のやりたいことをはっきりさせることができたと思います。

IMGA0917

誰かの需要があるかの前に自分がやりたいと思えるか

<以下参加者質疑応答>

Q:一般的な就職をしなかったことによる不安は生まれなかったのですか?

当時は不安でしたね。もちろん今も不安ですよ(笑)。でも、就活時は一応就職へ向けた活動をしないのも問題だと思い、集団説明会等色々行きました。そこで企業の方と話をしていけばしていくほど、目の前にある会社の理念に当事者意識で感動したんですよね。話に感心しながらも、いつの間にか会社の担当者の方と「 むしろこういうことができたらすごい面白そうですよね?」みたいに勝手に企業の人と対等な目線で話をしてしまっていました(笑)。おそらくそうした態度は、自分がアーティストをはじめ色んな人達に対して、いつもそうしたスタンスを取ることから生まれたのかもしれないです。企業の採用担当の方からも「君は会社に入るより自分で頑張ったほうがいいよ」「君ここにいる時間無駄じゃない?」と後押しされ、就職活動を止めました。そうした意味では清々しく外に出れたと思います。もちろん、会社に入るのがダメな訳ではなく、ビジョンとやりたいことが近い企業に、奇跡的に出会い、今すぐにでも是非一緒にやりたいと思えれば良いと思うんですが、自分の場合はあまりそういうのが無かったので、そのまま社会に出てしまいました。

Q :自分が企画を進めるにあたり、ちゃんとしたクオリティを保てるのか、そもそも需要があるのか等、色々考えて行動に移せな いことがあるのですが、どうすれば良いでしょうか?

まず自分の需要があるかどうかですよね。自分がやりたいかどうかが一番大事なので、周りの人の需要とか最初は考えなくて良いと思います。自分がやりたいかどうかでやっていくうちに、自分のやりたい範囲の中で整えていけば良いですし、はじめはみんな何でもやったことが無いのだからできなくて当たり前ですよ。 進めていく中で自分のやりたいことが周りの人とリンクする可能 性もあるかもしれないですし、全くリンクしない場合もあるかもしれません。でもそもそも自分がやりたかったのだから、リンク するかどうかは1番の問題ではないと思います。とりあえずやってみないと何も生まれないと思うんですよね。

自分が本当にしたいことは、時よりどんどん変わっても、発展しても、もう1回戻っても良いですし、人生が終わるまでずっと付き合い続けていくものだと思います。「ちょっとやってみたい」 と思った時に少しずつでも形をつくり続けていくと、粘土のように段々と固くなって形が見えてきますし、それが巡り巡って誰か の需要になることもありますので、何も怖がらなくても大丈夫だと思いますよ。

―最後に参加者のみなさんへメッセージをお願いします。

昔私が非常に影響された予備校の先生から、自分がやりたいことというのはまず身近な人(家族、恋人、友達…)から理解されるのはとても難しい。「そんなのお金にならない」「生きていけない」と否定されることがほとんどだけれど、自分がやりたければそこに負けちゃいけない、という言葉をもらったんですよ。両親も最初は自分がやっていることをあまり肯定してくれなかったんです。「定職に就いてくれれば良かったのに」とずっと言われ続けていたんですけど、そこで負けずに「自分はやりたいことをちゃんと形にしているんだぞ!」と鼓舞していたところもあって。周りの人だけではなく自分自身に負けない、というのが一番だと思うので、過去と未来の自分に恥じないようにやって欲しいし、自分もやりたいなと思っています。何かしらきっとみんな社会を良くしたいとか、現状を少しでも変えたいと思っている方が多いと 思うので、まずはそんなに怖がらず色々触れてみて、アウトプットしてもらえればと思います。

関連URL

Tiarart.com:http://www.tiarart.com/

過去のTSGの様子はこちら

TOKYO STARTUP GATEWAY 2022

TOKYO STARTUP GATEWAY 2021

TOKYO STARTUP GATEWAY 2020

TOKYO STARTUP GATEWAY 2019

TOKYO STARTUP GATEWAY 2018

TOKYO STARTUP GATEWAY 2017

TOKYO STARTUP GATEWAY 2016

TOKYO STARTUP GATEWAY 2015

TOKYO STARTUP GATEWAY 2014

[ PROFILE ]

冠 那菜奈さん(アートメディエーター/Tiarart.com 代表/一般社団法人オノコロ 理事)

1987年生まれ。武蔵野美術大学芸術文化学科卒業。大学在学中から、様々なメディアを駆使し、ヒト・モノ・ コトをより良い形でつないでいくアートメディエーターになることを目指し、卒業後フリーランスとして今も奮闘中。それぞれのニーズに合わせて企画やコーディネート、マネージメント、広報等を担当。主な活動として、フジテレビ特番アートバラエティ番組「アーホ!」のアーティストキャスティング・コーディネート、としまアートステーション構想、茨城県北芸術祭2016、寺田倉庫アート事業企画などがある。

他の記事を見る

Interview

【動画】「全部計画してから始めると身動きが取れなくなってしまう」株式会社パルミー…

伊藤 貴広さん(2014ファイナリスト/株式会社パルミー 代表取締役/TOKYO STARTUP GATEWAY2019 メンター)

Interview

400文字の夢のつづき 第5回 ~農業の地域性や社会課題を「魅力」として体験化す…

原田 そらさん(2020優秀賞/創業準備中)

Interview

400文字の夢のつづき 第8回 ~完全食味噌汁で世界を健康に~

斉藤 悠斗さん(2020セミファイナリスト/株式会社MISOVATION 代表取締役)

Interview

「ラントリップ」というスタイルの普及で、世界中の道を資源に変える。

大森 英一郎さん(2014ファイナリスト/RUNTRIP Founder)

記事一覧へ戻る